MY ISSUE / 016

経済性と社会性の共存を
証明したい

大田雄之介 ISAI PARK 店長

2020年4月ヘラルボニーに入社。新規店舗および事業開発メンバーとして名古屋拠点にて1年間活動。その後、岩手本社に異動し、コーポレート部門の立ち上げを経て、2025年1月からヘラルボニー初の旗艦店「ISAI PARK」の店長を務める。

2025年3月、岩手県盛岡市のカワトク百貨店1階でグランドオープンしたヘラルボニー初の旗艦店「HERALBONY ISAI PARK(以下、ISAI PARK)」。ISAI PARKは「地域」「多様性」「体験」をテーマに、ストア・ギャラリー・カフェの機能を融合させた、ヘラルボニーが目指す理想の空間。この初代店長を務めるのが大田雄之介だ。

大田は学生時代より両代表(代表取締役 / Co-CEO松田崇弥、文登)と親交を結び、ヘラルボニーの前身団体である「MUKU」の時代から同社に関わり始めた。通関士の仕事を辞し、2020年、2期目であったヘラルボニーに正式にジョイン。本人自ら「ある種の立ち上げ屋」と語るように、2020年に名古屋・ヒサヤオオドオリパークで開催したポップアップストアの立ち上げやコーポレート部門の立ち上げやなど、ヘラルボニーが新たな挑戦に挑む際の旗振り役として邁進してきた。

入社して早6年。まさにへラルボニーの成長とともに歩みを遂げてきた大田が今、ISAI PARKの店長として思うことを聞いた。

ISAI PARKが目指す未来の理想郷

2025年3月にオープンしたヘラルボニー初の旗艦店「​​HERALBONY ISAI PARK」の設立の背景を教えていただけますか。

ISAI PARKの前に「旗艦店」という構想自体は以前からありました。その上で「旗艦店なら絶対に岩手でしょ」というのは、創業者の二人を含め、社内では共通認識でした。ただ、実際に「ここだ」と思える場所にはなかなか出会えなかったんです。そんななかで、地方百貨店のカワトクさんが全館リニューアルの構想を進めていて、そのタイミングで「一緒にやりませんか?」と声をかけていただいたんです。それが今回のISAI PARKにつながっています。

実際にオープンしてみて、まだ1ヶ月も経っていませんが(インタビュー時)、想像以上に多くのお客さまからの期待をひしひしと感じています。岩手の店舗については、これまで多くの取り組みがなされてきましたが、今後さらに成長の可能性を広げていくために、継続的な工夫が求められる状況でした。そんな場所が、今では売上が以前の約5倍にまで伸びています。毎日たくさんのお客さまが訪れてくれて、「本当に期待されていたんだ」と、大変嬉しい気持ちと同時に、改めて身が引き締まる思いです。

実際にお店に来ているお客さまからは、どんな声が届いていますか。

いちばん多いのは、「空間全体がとても素敵だ」という声です。単に商品を買う場所というより、ヘラルボニーというブランドの世界観そのものを体感できる場所として、空間に価値を感じていただけているのだと思います。

買い物を終えたあとには併設のカフェでゆっくり時間を過ごせたり、今は店内外にアート作品を12点展示していて、まるで美術館にいるような雰囲気も味わえる。そんな多層的な体験を提供できているのが、お客さまにも好評です。

ただ、「新しい」だけではないんです。たとえば店舗の柱や床には、実はカワトクさんが建てられた当時の大理石をそのまま残している部分もあって。そこに昔ながらの趣やカワトクさんの歴史を感じられるんですよね。そのバランスが「落ち着く空間だ」と言ってもらえる理由の一つだと思います。

それから、僕たちが目指しているのは、障害のある方もない方も関係なく、誰もが安心して訪れられる場所をつくることです。実際、店舗でも障害のある方が働いていて、それが自然なこととして受け入れられる空間を目指しています。

お店の前のスペースは、現在イベントスペースになっていて、今後は地域の方々と一緒にマルシェを開いたり、街全体の賑わいをつくっていけたらと考えています。「ISAI PARK」という名前の通り、単なる店舗にとどまらず、盛岡という街の文化やコミュニティを育てていく拠点になっていければと思っています。

プロダクトが引き寄れる魔力

大田さんは2025年で入社6年目になりますよね。そんな大田さんから見て、「ヘラルボニーらしさ」はどんな部分に宿っていると思いますか。

最近すごく実感しているのが、「このプロダクトを持っている自分がちょっと好きになれる」という感覚です。これは僕自身の体験で、旅館に泊まったときの話なのですが、エレベーターに乗っていたら、障害のあると思われる方がパニックになってしまっていて、その付き添いのお母さんが「すみません、すみません」と周囲に謝っていたんです。

僕はそのとき、たまたまヘラルボニーのエコバッグを持っていて、お母さんがそれに気づいたんですね。様子が落ち着いた頃、「あ、ヘラルボニーのバッグですね」と声をかけてくれました。そしてその瞬間、あくまで僕の主観なのですが、少し安心したような表情を浮かべてくれたように見えたんです。この場において「ヘラルボニーを持っている自分」としていられたことが、空気を和らげた気がしました。

これは単なるエコバッグではなく、ヘラルボニーのプロダクトだからこそ持っている“魔力”だと思うんです。障害のある・なしを超えて、人と人との間にある見えない壁を和らげてくれるというか、溶かしてくれる。そういう力がこのブランドには確かにある。そう思えたエピソードですね。

経済性と社会性は共存できるはず

まだオープン間もないISAI PARKですが、今後の展望を教えてください。

ISAI PARKの目標は、大きく2つ。

1つは、短期的な視点ですが戦略と実行のサイクルをしっかり回転させること。そしてもう1つは、中長期的な視点で「盛岡の新しい玄関口」としての認知を獲得すること。この2つを軸に、とにかく“イベントフル”な場所にしていきたいと思っています。

たとえば、店舗内には作家さんが使えるアトリエスペースがあるのですが、そこにふらっと作家さんが滞在し「今日は絵を描いてます」といった、ライブペインティングが始まったり。こちらが意図して仕込むわけではなく、“偶然の出会い”が生まれる体験を提供していきたいです。

そしてその先には、地域への還元というテーマがあります。ISAI PARKは地域とともにある場所でありたい。ここに来ることで盛岡という街そのものを好きになってもらえるような、そんな拠点になれたらと思ってます。

ヘラルボニーを知った方が、「あ、ISAI PARKに行ってみたいな」と思ってくれて、実際に足を運んでくれて、そしてその人が熱狂的なファンになってくれる。盛岡以外から来る方にとっても、ここが特別な場所になっていく。そういう“熱狂が生まれる場”として、ISAI PARKを育てていきたいと思っています。

最後に、へラルボニーとしての目標についても教えてください。

企業として、利益を出し続けること、成長を止めないこと。それがそのまま、障害のある方々の活躍の場を広げ、報酬というかたちでの還元につながっていく。経済性と社会性、その両軸で圧倒的に成長していく。それがヘラルボニーという企業を通じて実現したいことです。

ただ、成長の過程で、どうしても矛盾が出てくることもあると思います。一般的なビジネスに近づけば近づくほど、唯一無二の存在感が失われてしまうんじゃないか。マーケットの目にさらされることでやりたかったことが実現しづらくなるんじゃないか。そういう葛藤は少なくとも今もあるんです。でも、そこも含めて「向き合っていく覚悟」を持ち続けたい。

難しさはあるけれど、それでも僕たちは、“売れることで意味が生まれるビジネス”を信じているし、だからこそ、ヘラルボニーは経済的にも社会的にも、圧倒的に成長していけると信じています。売れれば売れるほど、作家にとっても、社会にとってもよいプロダクトであること。これをISAI PARKとしても、へラルボニーとしても体現していきたいですね。

大田雄之介 ISAI PARK 店長

2020年4月ヘラルボニーに入社。新規店舗および事業開発メンバーとして名古屋拠点にて1年間活動。その後、岩手本社に異動し、コーポレート部門の立ち上げを経て、2025年1月からヘラルボニー初の旗艦店「ISAI PARK」の店長を務める。

MY ISSUE

へラルボニーのメンバーは、多様なイシューを持ち日々の仕事に向き合っています。一人ひとりの原体験や意志は、社会を前進させるポジティブな原動力に変わります。